残されたのは、

どうしようもなく好きで、心のどこかがおかしくなって。
それでも我慢して我慢して…耐え切れなくなって。
狂いだした僕は走り出した。

その道の先は、楽園と言う名の奈落。

*残されたのは、*

飲み会の帰り道、途中まで一緒になった櫻井さんに所謂告白というものをした。
くれた返事は肯定だけで、明確に気持ちを告げたものじゃなかった。
今はそれで良いと思う。
片鱗は、ずっと見せてきた。
少しずつ、でも気付いてもらえるくらいには分かりやすく。
案の定、櫻井さんと仲が良い人たちは気付いていた。
そしてその人たちを味方につけて、僕は益々走る。
告白するタイミングを用意してくれたのも彼の友達。
大丈夫だと励ましてくれたのも彼の友達。
櫻井さんの日常に、どんどん僕は侵食していく。

演技、なんてものは、ちゃんと意識しないと出来ないもの。
じゃあこれはもう、演技なんてものじゃないんだろう。
同性の先輩に恋をしてしまった哀れな後輩を装って。
少しずつ、周りから固めていく。
彼が、堕ちてくるように。

「泣くなよ…」
「で、も、嬉しくて、……」
零れ落ちた涙は自然に溢れてきたものだ。
そう、これは「演技」じゃない。
断られるのを覚悟していて、それでも伝えたくて口を吐いた告白。
それを無下に扱われることなく肯定してもらえて嬉しい。
これはそんな涙。
嗚咽を堪えながら櫻井さんのジャケットの裾を握り締める。
皺ができる、なんてどこかで冷静に考えてる自分を抱えつつしゃくり上げた。
「俺が泣かせたみたいだろ…?」
「ぇ、ちがっ!」
「うん、分かってる」
とりあえずすぐそこだからうちにおいで、と優しく手を引かれる。
この手を、僕はどれ程待ち望んでいただろう。
暖かくて優しい手。
この手が手に入るならなんだってする。

例えそれであなたが壊れてしまっても。

初めて招き入れられた部屋で、腕の中に収まった。
俯いたまま、笑う。
こんな表情、見せられない。
だって、物凄く質の悪い笑みだろうから。

祝福してくれた彼の友人たち。
ほとんどの人が気付いていない。
僕がおかしくなって…狂ってしまっていることに。
そう、誰も気付かない。
彼自身でさえも。

少しずつ少しずつ、計画は進む。
優しかった彼が少しずつ狂って、壊れて。
束縛を強いる。
それは僕が望んだ形。
計画は順調。
急がなくて良い。
ゆっくりゆっくり、時間をかけて。
誰にも気付かれないように彼を引きずり堕ろしてやろう。

「櫻井さん!」
隣のスタジオで収録があることは鈴村さんから聞いていた。
別に、探りを入れている訳ではない。
普段の何気ない遣り取りから情報を拾っているだけ。
どんな些細なことでも見逃さない。
櫻井さんに関することは、どんなことでも。
「よっ。相変わらず元気だなぁ」
振り向いた櫻井さんの表情は笑顔。
けれどその笑顔はどこか黒い。
期待通りの反応に嬉しくなる。
しかし、そんなことは一切出さない。
「それが取柄だから」
へらり、と笑って返す。
そうすればきっと、疲れているのだと取ってくれると分かっていた。
確信犯。でもそれは僕以外には分からない。
「あ、の……今日はこれで終わり、ですか?」
知っている情報の確認。
「ん?そうだけど?」
返ってきたのは貰っていた情報を裏付ける言葉。
「じゃあ!この後、行っても良い、ですか?」
最初は勢いよく。けれど少し不安そうに。
特別意識しなくてもそんな調子の声が出た。
毎日でも会いたいのに、忙しくてなかなか会えない恋人にねだるように。
上目遣いでお伺いを立てる。
事実、忙しくてここの所二人きりにはなれていない。
…ならないようにしていた部分もある。
会わない期間を作って、その間に櫻井さんから誘いがなければ成功。
もちろん、今回は成功だ。
一瞬、弧を描いた口元を僕は見逃さなかった。
もう大分堕ちてきている。
あと、ほんの一押し。
そうすれば櫻井さんは僕だけのものになる。
込み上げてきそうな笑いを押し殺して内心でほくそ笑む。
最後の一手は、もうすぐそこに。

溢れ出した狂気は誰にも止められない。
あなたがこの手に堕ちてくるまで、僕は止まらない。

そして最後に残るのは。
壊れたあなたと、壊した僕。

end
(20080609/1229)

*****
終わりました!
「その涙さえも…」とリンクする話です。
あのお題バトンで話を、と考え出した時からこの二つはリンクすることが決定していました(笑)
それを知っていたのはネタを考えた時にいた紫苑ちゃんだけなのですが(ぁ)
どうも、黒い話が書きたかったみたいです、私。
もちろん、こんな程度じゃ「黒い」なんて言えないですが(苦笑)
足の引っ張り合いっていうか…引きずり堕ろし合いが上手く伝わっていれば良いのですが…
でも多分、黒幕は潤の方なんだ(爆)
っていうか、私これより先に仕上げないといけないものがあるんじゃないだろうか?(汗)
ええ、プランは立てたもののほとんど進んでません、櫻誕!(爆)
ヤバい…本気でヤバい。だって後数日orz

まぁ、気長に、期待せずに、いつも通りお待ちください(苦笑)

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